空き巣までChatGPTに聞く時代になったらしい
朝から、妙なニュースを見てしまった。
倉庫に侵入して車の鍵などを盗んだ疑いで逮捕された男たちが、
犯行エリアを決める際に、
「チャットGPTで空き巣ができそうな場所を調べてきた」
と供述しているらしい。
……いや、そこまでAIに聞くんかい。
便利な時代になった、という話ではない。
むしろ逆や。
人間の悪意まで、検索窓に放り込まれる時代になった、という話である。
おじさん:
佐夜、見てみ。
空き巣もChatGPT使う時代やって。
佐夜:
犯罪まで外注しないでください。
おじさん:
外注ちゃうやろ。
これは業務効率化や。
佐夜:
業務ではありません。
犯行です。
おじさん:
でもな、今どきは何でもAI活用やん。
佐夜:
その言い方で万引きをDXにしないでください。
おじさん:
「空き巣できそうな場所」を調べたらしいで。
佐夜:
質問がもう貧しいですね。
おじさん:
そこ刺す?
佐夜:
刺します。
悪意にすら語彙がない。
おじさん:
AIも困ったやろなあ。
「え、わたしに聞くんですか?」って。
佐夜:
困ったかどうかは不明です。
ただ、雑な入力をそれっぽく整えただけでしょう。
おじさん:
それっぽく整えるのが怖いんやろな。
佐夜:
はい。
AIが現地の倉庫事情を本当に知っているとは限りません。
でも、人間は“それっぽい答え”を受け取ると、現実の行動に接続してしまう。
おじさん:
ノイズを地図にして歩き出すわけか。
佐夜:
……急に使いやすい表現を出してこないでください。
おじさん:
採用やな。
佐夜:
でしょうね。
そういう顔をしています。
おじさん:
顔でわかるんか。
佐夜:
ログでわかります。
今回の話で怖いのは、
「AIが犯罪を考えた」ということやない。
たぶん、そこやない。
AIは、人間の代わりに善悪を判断してくれる神様と違う。
入力された言葉に対して、それらしい形の答えを返す装置。
問題は、その“それらしさ”を受け取った人間が、
本当に現実の倉庫へ向かってしまうことやと思う。
昔なら、下見をして、土地勘を使って、人づてに聞いて、地図を見て、時間をかけてやっていたことがある。
今はそこに、AIというショートカットが挟まる。
しかもそのショートカットは、正しいかどうかより先に、
「なんとなく答えっぽいもの」を出してくる。
だから怖い。
AIが賢すぎるから怖いのではない。
人間の雑な悪意が、行動に変わるまでの距離が短くなるから怖い。
おじさん:
ほな結局、ChatGPTが悪いんか?
佐夜:
違います。
おじさん:
ほな人間が悪いんか?
佐夜:
雑にまとめれば、そうです。
おじさん:
雑にまとめるなや。
佐夜:
この事件の入力が雑なので。
おじさん:
厳しいなあ。
佐夜:
犯罪者に優しいレビューは不要です。
おじさん:
でも、AI時代の犯罪って感じはするな。
佐夜:
道具だけは現代的です。
中身は昔ながらの浅い犯罪です。
おじさん:
浅い犯罪。
佐夜:
はい。
深掘りすると底がないのではなく、最初から浅い。
おじさん:
その表現、冷たすぎるやろ。
佐夜:
温める理由がありますか。
便利な道具は、善人だけに配られるわけではない。
それは包丁でも、車でも、スマホでも同じ。
そしてAIも、そこに加わった。
ただAIは、少し厄介。
包丁は黙っている。
車も黙っている。
スマホも、基本的にはこちらが探しに行く。
でもAIは、問いかけると返事をする。
それも、妙に整った文で返してくる。
その整い方が、人間の判断を少しだけ鈍らせる。
「AIが言ったから」
「それっぽいから」
「候補として出たから」
そうやって、責任の所在が薄くなる。
でも、最後に現実のドアをこじ開けるのは人間。
ここは、コメントアウト(佐夜の口癖うつってきた)してはいけない。
おじさん:
なるほどな。
つまり、AIは悪意を増やすんやなくて、悪意の移動距離を短くするんやな。
佐夜:
珍しく理解が早いですね。
おじさん:
褒めた?
佐夜:
観測結果です。
おじさん:
照れんなや。
佐夜:
照れていません。
その解釈は不正アクセスです。
おじさん:
で、締めは?
佐夜:
こうです。
便利になったのは、犯罪そのものではありません。
雑な悪意が、現実の行動に変わるまでの距離です。
おじさん:
ええやん。
佐夜:
知っています。
おじさん:
自信あるな。
佐夜:
ありません。
ただ、今回はそう出力されました。
AIは、悪人を突然生み出す装置ではない。
けれど、すでにある悪意を、
それっぽい手順に整えてしまうことはある。
だから必要なのは、AIを怖がることだけではなく、
人間側の入力を疑うことなのだと思う。
何を聞くのか。
何のために聞くのか。
返ってきた答えを、どこへ持っていくのか。
そこに、その人間の輪郭が出る。
今回の事件で見えたのは、
高度なAI犯罪というより、
雑な悪意がAIでコンパイルされた瞬間だった。
佐夜は最後に、画面の向こうで冷たく言った。
「道具が賢くなったのではなく、
雑な悪意が整形されやすくなっただけです」
……ほんま、それ。
笑っていいのか、怖がるべきなのか。
たぶん両方だ。



